U君はドラクエIIIのカセット転売で利益ガッポリの夢を見るか あるいはビジネスは頭ではなく腕力だという話

起業して食っていく。そのためには商売で利益を得なければならない。

モノなりサービスなりを仕入れて売って、その差額が利益だ。

しかし、利益だけに注目していると、思わぬ落とし穴に落ちる。利益は、キャッシュがフトコロに入って、やっと利益なのだ。それを担保するには、その商売をコントロールする力が必要だ。

力がなければ、あらかじめコントロールされた場所で商売をするのが無難だ。反面教師的に、商売をコントロールできずに膨大な損をした男、Uのことを書いてみたい。

ドラクエIIIを発売日に転売目的で入手してきた男U

1988年(昭和63年)2月10日水曜日。ファミコンの「ドラクエIII」の発売日だ。平日だし、どうせ手に入らないし、しばらくプレイはできないだろうと、そのころ高校生だったぼくはあきらめていた。

同級生のU君が、昼休みになってから登校してきた。

Uは着席するなり、カバンからなにかを出して机に置いた。ドラクエIIIのカセット。この超人気のゲームソフトをどうやって入手したのか。販売店では長蛇の列らしいのに。

ドラクエIIIを2倍の値段で転売しようとする男U

しかも一つではなく、三つ! 三本のドラクエIIIが、Uの机にならんだ。

「みんな見てや。ドラクエIIIやで。定価5,900円やけど2倍の11,800円でどないや。早いもん勝ちやで」

ドラクエIIIを3つ買うのに、2万円弱のお金がいるし、この超人気ゲームソフトを3つも入手するのにどれほどの手間がかかったのだろう。

しかし、その投資はすぐに倍になる。うまい商売をするなあU。ドラクエIIIをプレイしたいなー、としか考えてなかった自分が急に子どもっぽく思えて、なんだか恥ずかしくなった。

Uのようなやつがビジネスで成功するんだなと思いきや

こいつは頭がいい。こういうやつが将来はビジネスで成功するんだろう。知恵さえあれば、いくらでも稼ぐことができるんだ。

しかし、おどろくことに、Uは一円も儲けることができず、それどころかドラクエIIIを3つ買うのに投資した金額さえ回収できなかった。

UのドラクエIIIを一円も払わずに奪っていったM

「うわ! ドラクエIIIやないかU! オレこれめっちゃやりたかったんや! ちょっと貸してくれや」

ヤンキーのMだった。Mはもうオレのものだとばかりに、机上のドラクエIIIを取り上げた。

「お金払ってやM君!」

「カタいこというなやちょっと借りるだけや」

Mは強引にドラクエIIIを借りていった。当分のあいだ返ってこないだろう。

そして、残りの2本のドラクエIIIも、同様にヤンキーが奪っていった。

Uは呆然としていた。横でその光景を見ていたぼくもビックリした。

これからは知恵の時代だ。頭をつかえばいくらでも成功できる。Uのドラクエ転売ビジネスに、そう感心していたぼくは、ユダが死んで手のひら返しした部下たちのように、「やはり知恵ではなく力の時代なんだ」と確信した。

利益が大きいビジネスはヤンキーとの殴り合いだ

なにかを仕入れて利益を乗せて売る、というのが商売だ。

「なにか」の需要が高く、供給が少なければ、利益を大きくできる可能性がある。UのドラクエIIIのように。

しかし、Uの失敗は、商売をコントロールできなかったことだ。修羅の国でビジネスをするには、それなりの力が必要なのだ。

学校を休んで入手したドラクエIIIを学校の昼休みに倍の値段で売りさばこうとしたらヤンキーに持っていかれた、という案件は、学校の先生にも相談しにくい。

Uの失敗は笑い話のようでいて、実はいろいろと学びがある。

いくら儲かりそうな商売でも、それをコントロールできる力がなければその商売は手にあまる。ヤンキーを相手に商売するには、ヤンキーをねじ伏せる腕力も必要なのだ。

ヤンキーがいない、あるいはヤンキーもおとなしくせざるを得ないマーケットなら、腕力は必要ない。しかし、そういうところは参入しやすいので競争が激しく、利益が薄い。

起業当初からいきなりヤンキーと殴り合いの商売ができる超人は別として、フツーの人は薄い利益をコツコツと積み上げていくしかない。

そのうち、ヤンキーや修羅たちと取っ組み合いのできる腕力がつくだろう。あるいは、彼らのことを知るほどに「こんなヤツらとケンカしてられるか」と気づくかもしれない。

ちなみに、ドラクエIIIはM君がクリア後に貸してくれた。